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2024.04.09 会長の時間
馬場会長
"タオルミーナの浜辺"

1990年代の頃に、海を舞台にしたダイバーの映画「グラン・ブルー」が注目を集めていたことがあります。酸素ボンベもなしに海を深く潜ることのできるふたりの若者が、競い合いながらも友情を育む姿が描かれていました。そのうちの一人は、実在のフランスの天才ダイバー ジャック・マイヨールがモデルです。彼は素潜りで100メートル以上の深さまで潜ることができる、まさに海に生きる人でした。陽光に輝く地中海の海岸の風景と、深い海の中のどこまでも青く暗い映像の印象だけが、強く残った映画でした。そしてその主人公は自然の海そのものであり、映画のなかで流れる時間はとてもゆったりとしていたことを覚えています。

若い頃の時間の過ごし方は、いつも何か意味のあることをしたいと急いでいたようにも思えます。旅にでた時もプランを立てて、スケジュール通りに色々なところを回り、できるだけ見る価値のある場所を訪れて、自分自身の経験や知識を増やしたいと考えていました。日々の暮らし、仕事や勉強でも、やはりなにかを探しながら急いでいました。この映画を観た時、そんな当時の私が過ごしていたのとは全く違う時間と空間に誘ってくれた事を思い出します。

数年前、家族と共にイタリアの南、シチリア島のタオルミーナに滞在したことがありました。島の東側、切り立った山が海に迫り、その山の中腹に位置するタオルミーナは、豊かな自然の中にギリシア・ローマ時代から中世の遺跡が残る美しい街でした。細い坂道や階段に沿って、小さな教会やレストラン、食料品店などが軒を連ねています。通りのあちらこちらに、自生のレモンやオレンジの木があり、実をつけていました。高台からは彼方に一直線の稜線を描く、雄大なエトナ火山の姿を見ることができました。

そして海に降りるとイソラ・ヴェッラビーチがあります。ここはまさに映画グラン・ブルーが撮影された海岸でした。水の透明度がとても高いため水中の様子も深くまで見えます。私は、ひとけのない海岸線に沿って沖合の小さな島まで続いている細い砂州を、転ばないように気をつけながら、ゆっくり歩きました。そして足もとに触れる滑らかな小石を拾いました。息子達や夫は、遠い海岸からじっとこちらを眺めていました。映画と違って、明るい日差しのなかで、どこにでもあるような穏やかな浜辺での一時でした。

私や家族が旅するときは、もちろん旅先の名所旧跡や美術館などを訪れて、新しい発見や出会いを求める気持ちもありますが、(買い物にもゆきます。)年を重ね今の私は、その時のその場所での風景や気配や雰囲気を味わうことに幸せを感じます。時間がたって、日常の生活のなかで懐かしく思い出すのは、ローマ時代の遺跡や美術館のピカソの絵画よりも、きれいな海の波打ち際で小石を探した時の様子かも知れません。

しっかり洗って、グラン・ブルーの海岸から持ち帰った小石は、小豆島オリーブの実が入っていたガラス瓶に入れて書棚に置いたままになっています。先週、ふと手に取って、この風景と昔の映画を思い出しましたので、本日ご紹介させていただきました。

以上で会長の時間を終わります。ありがとうございました。

 
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